2009年7月19日(日) <第2216号>
− Aとのコミュニケーションをデザインする −
09.外科医と患者
患者A(5)
「え、本当ですか?」
外科医K(8)
「ええ、本当です。ですが条件があります。」
患者A(6)
「何ですか?」
外科医K(9)
「それは手術で癌細胞を全部取り切れば、という条件です。
身体に1回でも癌細胞が残ってしまえば、アウトです。」
Aさんは不安気に尋ねる。
患者A(7)
「で、私の癌は取り切れるんですか?」
Kは微笑する。
外科医K(10)
「さあ、それはやってみないとわかりません。」
患者A(8)
「やってみないとわからない?
そんな丁半バクチみたいなことをお医者さんが言っては困りますよ。」
外科医K(11)
「そのとおり。手術とは丁半バクチそのものです。」
Aさんは唖然としてKを見た。
外科医K(12)
「少し真面目に答えると、医学はバクチのことを確率と言い換えているだけなんです。
Aさんの胃癌は現在ステージ2で、5年生存率は60%くらい。
つまり、3人中2人は生き残れるバクチです。」
いきなり余命の確率を突きつけられたAさんは、呆然とKを見た。
外科医K(13)
「お話を聞いて安心しました。
癌告知をしたことは、Aさんにとって間違いではなかった。
これなら今からお話しする手術リスクについても理解していただけることでしょう。」
Aさんの最大の問題は、×××××です。
つまり×××××を引き起こす確率は、正常人の5倍です。」
患者A(9)
「そんな危険な手術、大丈夫なんですか?」
Kはふっと笑う。それから真顔に戻って答える。
外科医K(14)
「大丈夫かどうかなんて、誰にもわかりません。
私がAさんに呈示できるのは確率的事実だけ。
だけどどれほど低い確率であっても起こってしまえばその人にとっては100%。
つまりすべてか無か、なんです。
私はいつも通り手術を行うだけです。ですが結果は保証しかねます。
それでよろしければ手術承諾書に捺印しナースステーションまでお持ち下さい。」
− 明日(7/20)は『Aのしぐさを観察する』を掲載します −
<バックナンバー>
00.子どもの心をつかむ
01.事例
02.コンビニの店員の心をつかむ?
03.レストランで接客している女性
04.職場で具合の悪そうな部下を見つけた上司
05.「わかりません」と答える研修医A
06.不定愁訴(”愚痴外来”)
07.聴き遂げる
08.真摯に耳を傾ける
09.外科医と患者
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