2009年7月17日(金) <第2214号>
− Aとのコミュニケーションをデザインする −
08.真摯に耳を傾ける
たとえば「診療順を飛ばされた」というクレームを延々と言い続ける中年女性Aさんがいた。
不定愁訴に回された当初、マシンガンのように自分が蒙った不利益をまくしたてた。
私はうなずきながら相手の目を見、聞いていますよ、とサインを送る。
3度目、4度目になるとさすがに相手もワンパターンの私の対応に気がつく。
「ちょっとお、聞いているの?」
Aさんらのクレームは必ずこう変容する。
そこで私は、Aらの主張したことをまったく同じように繰り返してみせる。
Aさんらは私の言うことにいちいちうなずく。
私が語るのはAさんらの主張なのだから、当たり前だ。
人間とは不思議で、どんなに怒っていても、うなずくという肯定的行為をしながら怒りを
継続させることは難しい。
私は相手がいいと言うまで、相手のクレームを丁寧にリピートする。
Aさんらはうなずき続けるが、やがて「もういいわよ」と呟く。
そしてすっきりとした顔で、「今週は許してあげるけど、次に同じ目に遭わせたら訴えるわよ。」
と捨て台詞を吐き、不定愁訴外来を後にするという寸法だ。
これは相手をバカにした対応ではない。私はAさんらの主張を繰り返せるくらい言葉を
聞き遂げていますよ、と伝えているだけなのだ。
復習できるくらい真摯に耳を傾けている。それがわかっただけで怒りは半減する。
そのことを私は体得した。慣れればどういうことのない業務なのだから。
− 明日(7/18)は『09.外科医と患者』を掲載します −
<バックナンバー>
00.子どもの心をつかむ
01.事例
02.コンビニの店員の心をつかむ?
03.レストランで接客している女性
04.職場で具合の悪そうな部下を見つけた上司
05.「わかりません」と答える研修医A
06.不定愁訴(”愚痴外来”)
07.聴き遂げる
08.真摯に耳を傾ける
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